次に、能登半島地震を踏まえた“防災対策の拡充強化”についてお伺いします。
本年1月に発生した最大震度7の能登半島地震による死者数は9/10時点で358人に上り、東日本大震災以来最多となりました。
被害がこれほど甚大となった要因として、元日という、帰省客や観光客など沢山の人で賑わうタイミングでの発災であったことのほか、犠牲者の死因の約9割が住宅の倒壊によるもので、耐震化が大きく遅れていたこと、市街地に密集した建造物で火災が発生し、広範囲に延焼が広がったこと、被害が大きい市町ほど高齢化率が高かったことなど、様々な指摘がなされています。
先日、被災地のわが党国会議員、地元議員から、発災以降今日に至る支援活動の状況を具に伺う機会があり、本県に当てはまる課題や生かすべき視点など貴重な示唆を得たところですが、最大の課題は、死因の約9割を占めた“耐震化の遅れ”であり、ここまで甚大な被害に至った要因として、“耐震化率の低さ”と“高齢化率の高さ”の相関関係が挙げられました。
耐震化率とは震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないとされる1981年に定められた耐震基準を満たす割合ですが、甚大な被害があった輪島市、珠洲市、穴水町、能登町の耐震化率は、いずれも全国平均の87%を大きく下回る46~61%という水準であったそうです。
一方、同地域の高齢化率は、全国平均の29%を大きく上回る46~52%という高い水準で、高齢者が多い過疎地ゆえに家屋についても必然的に老朽化が著しく、“住民の高齢化=住宅の老朽化=耐震化の遅れ”という相関関係、つまり“高齢化による耐震化の遅れ”が強調されました。
正にそれと合致すると感じた瞬間が、本年4月、愛南町で震度6弱を記録した、豊後水道を震源とする地震における被災者との対話でありました。
発災翌日の早朝、県議会公明党として笹岡議員、乗松議員、そして地元愛南町の池田議員とともに被災地を訪れ、現地調査を行った際、ある高齢者の方からこんなお話をお聞きしました。
「古い家なので耐震工事が必要なことはわかるけど、町から補助を受けたとしても自己負担が100万円以上かかるし、子どもたちが県外から帰ってくる当てがない中で、夫婦の年齢とか返済の手立てを考えると、とてもそこまでお金をかけて耐震化する気になれない」
という赤裸々な思いを語ってくださったのですが、“高齢化が進む地域での耐震化の遅れ”は、正に本県のみならず、全国の過疎地に共通する課題と感じました。
そこで、お伺いいたします。
本県における住宅耐震化の現状と、県内の耐震化率と高齢化率にどのような相関が見られるのか、またそれらを踏まえ、今後どのように取り組んでいくのか、ご見解をお示しください。
私は、今後も人口減少が進み、高齢化率が高くなることが見通される中で、県民の命を守るには、住宅の耐震化率を上げていくための新たなアプローチが必要ではないかと感じています。
これまでは、自助的な家具類の固定化や、住宅の耐震診断、耐震改修の促進が中心で、現役世代、家族世帯、健常者の方々には特に問題ないと思いますが、高齢者や単身者、低所得者や患者、要介護者、障がい者といった身体的にも社会的にも弱い立場に置かれた方々にはかなりハードルが高いものとなっていないか、そこに、これまでの耐震化促進策の限界を見る思いがするのです。
そこで私は、従来の支援に加え、居室のみを「耐震シェルター」として補強したり、寝たきりの患者や要介護者の寝室に「耐震ベッド」を設置するなど、「1棟まるごと」の耐震化以外にも、住宅を部分的に耐震化する「耐震空間の確保」にフォーカスしたアプローチが必要であり、それは可能な限り公費、つまり「公助」による「福祉的防災支援」として進められるべきと考えるのであります。
そこで、お伺いいたします。
今後ますます増加が見込まれる単身世帯、独居高齢世帯を視野に入れ、県として、これまで進めてきた木造住宅の耐震化の拡充強化とともに、発災時から救命救出までの時間と命を確保する耐震シェルターや耐震ベッドなど「耐震空間」の確保に向けた新たな取組みを進めて頂きたいと思いますが、ご所見をお示しください。
もう1つは、跡継ぎ不在による住宅の老朽化と特定空き家化をどう防ぐかです。
先にも述べましたが、耐震化を進める際に最大のネックとなるのは、耐震診断と改修にかかる高額な費用ですが、その負担を社会が支えることにより軽減し、取り除くことはできないでしょうか。
例えば、高齢の親が愛媛で、子どもたちは県外で暮らすケースは多くありますが、実家の耐震改修費用の一部、もしくは全額負担した場合に、税額控除などの優遇が得られる新たな税制ができれば、ふるさと納税のようなカタチで支持を集めるのではないか。また、本年6月に策定された国交省の「不動産業による空き家対策推進プログラム」を活用した官民連携による流通の取組みやまちづくりの支援を拡充強化し、特定空き家の発生抑制と同時に、付加価値を高めて活用する方向で、跡継ぎ不在により老朽化する住宅への対策を講じることは大変重要かつ有効と私は考えます。
そこで、お伺いいたします。
子どもたちが県外から帰ってくる当てがなく、耐震化に踏み切れない高齢者がおられる中、私は、防災減災対策として、老朽化した住宅を特定空き家にさせない取り組みが重要と考えますが、県としての見解をお示しください。
耐震化に次いで、被災地の公明党議員が課題として挙げたのは、“トイレの問題”でした。
このことに関し、1つエピソードをご紹介いたします。
石川県のわが党の県議が山口代表に対し、被災地に入られる際には3つのことをしてほしい、とお願いしたそうです。
1つは、金沢市から被災現場に向かう際、必ず寸断、陥没した道路を通って来てほしい、ということです。
警察、消防、医療などの車両が数珠繋ぎで被災地までつながっている状況や、寒風が吹きつける鉛色の空の下、救援活動が24時間続いている状況を肌で感じてほしい、との思いからです。
2つ目は、避難所に避難された方々の声について、それがどんなに厳しい声であっても、すべて受け止めて頂きたい、ということです。
県議自身も、全身全霊で受け止めようと、腹を決める場面が何度もあった、とのことでした。
そして3つ目に挙げたのが、避難所の“仮設トイレ”を実際に使ってみてほしい、ということです。
その“劣悪さ”、“汚さ”、“臭さ”、その中で用を足さないといけない“みじめさ”や“悔しさ”、だから、食事や飲み物を我慢して体調を崩される多くの人たちの気持ちを、ぜひ肌で感じてほしい、との思いからだったそうですが、断水が続く中、風呂、洗濯とともに、被災地にとって最も切実な課題が“トイレ問題”だったのです。
1月中旬には、本県の宇和島市をはじめ、全国20を超える自治体からトイレカー・トイレトレーラーが派遣され、「臭わない」「きれい」「明るい」と、被災者が感動的に喜ばれる様子が報道を通じて何度も伝えられたことはご案内の通りです。
政府は6月、能登半島地震で、高齢者などの要配慮者が数多く被災したことを踏まえ、中央防災会議で防災基本計画の修正を決め、災害応急対策に“福祉的な支援”の必要性を明記しました。
そのうち、指定避難所の衛生環境の整備に向けては、仮設トイレなどの早期設置に加え「簡易トイレ、トイレカー、トイレトレーラー」の整備が対策として明示され、市町村には、より快適なトイレの設置に配慮するよう努めることが要請されることとなりました。
私としては、南海トラフ地震をはじめとする、今後の大規模災害を見据え、県内市町においてこうした設備の設置が進むことを大いに期待いたしますとともに、例えば、道の駅などで日頃から使用することによって、地域住民に対する災害への備えの重要性の発信や、災害時の迅速な対応にもつながっていくのではないかと考えます。
そこで、お伺いいたします。
本県ではトイレカーを所有する自治体が5市ということですが、今回の国の動向を踏まえ、県として、市町のトイレカー整備促進にどのように取り組んでいくのか、ご所見をお示しください。
また、宇和島市では、兵庫県南あわじ市、長崎県島原市と、災害時にトイレカーを相互派遣する協定を締結されていますが、トイレカーの導入と同時に、こうした自治体間の支援し合う仕組みはとても重要と考えます。県として、この点も含め取り組んで頂きたいと思いますが、併せてご所見をお示しください。
〈答弁概要:土木部長〉
県では、近い将来発生が予想される南海トラフ地震等から人的被害を軽減するため、木造住宅の耐震化を積極的に進めているところでありまして、平成30年10月時点の住宅・土地統計調査による耐震化率は81.3%となっておりまして、令和4年度末では約86%と推計しております。
このような中、1月の能登半島地震では、高齢化率の高い地域において、耐震化率が相対的に低いとの認識が国から示されましたが、本県でも同様に、高齢化が進んでいる市町ほど耐震化率が低い傾向がみられ、高齢者世帯からの聞き取り等によれば、耐震改修への経済的負担や後継者不在など個々の事情があり、古い住宅に住んでいる高齢者が耐震化に踏み切れていないものと考えております。
このため、今年度から、これまでの耐震改修補助に加え改修設計の補助制度を新設し、所有者の経済的負担を軽減したところでありまして、引き続き高齢者に寄り添った対策を進めるため、低コスト改修工法の普及や、子や孫世代に向けたSNS広告の配信と全世代へ向けた情報誌への掲載等による意識啓発とともに、地域の実情に詳しい建築関係業者等を対象とする勉強会の開催を支援するなど、市町と連携し、令和7年度末の耐震化率90%の目標達成に向け、積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
〈答弁概要:土木部長〉
大規模地震時などに、住宅を倒壊から防ぐ耐震改修工事を、資金不足等の事情により行うことができない場合の対策として、耐震シェルターや耐震ベッドを設置することは、住宅が倒壊しても局所的に空間を確保することができ、人命の安全確保につながる可能性が高まると認識しております。
このため、県では、平成30年度から令和3年度まで耐震シェルターの設置費用の一部を支援する制度を設けておりましたが、有効性等の詳細な情報が住宅の所有者に十分浸透していなかったことから、この制度の活用実績は極めて低調でありまして、現在では、より確実な安全確保対策である耐震改修工事による住宅の耐震化に重点的に取り組んでいるところでございます。
そのような中、能登半島地震後において、大規模地震から命を守るためには、住宅の耐震改修とともに耐震シェルター等の設置も有効な選択肢の一つであることが改めて示されたことから、県においては、住民が命を守る対策として判断や選択ができるよう、市町と連携のうえ、出前講座を活用した設置事例の情報提供等に努め、引き続き市町や住民の要望を注視しながら、総合的な住宅の耐震化を推進してまいりたいと考えております。
〈答弁概要:中村知事〉
県では、誰もが愛顔で安全に暮らすことができる住まいとまちを実現するため、地域の状況に適した空き家対策を推進しているところであり、産学官で連携する「愛媛県空き家対策ネットワーク」を設立して、危険な空き家に移行しないための維持管理や、使える空き家の利活用等を促進するための取組みを進めてまいりました。
具体的には、関係団体がもつ空き家に関する情報を共有するとともに、シルバー人材センター等に維持管理を依頼できる仕組みの構築や、所有者が不明な場合における対応マニュアルの策定のほか、空き家所有者等に向けた意識啓発として、解決事例などの情報をホームページに掲載しており、お盆や年末年始においては、SNSを活用して、帰省する県外在住の方等へターゲティング広告を配信しております。
今後は、国が策定した「不動産業による空き家対策推進プログラム」において、空き家に関するノウハウをもつ不動産業界と地方公共団体が連携するスキームが示されましたことから、空き家等の発生から流通・利活用まで一括してサポートできる「空家等管理活用支援法人」の指定を促進し、市町や不動産業界等と連携して、空き家の流通を活性化させることで、総合的な空き家対策を推進してまいりたいと考えております。
〈答弁概要:中村知事〉
能登半島地震の被災地では、上下水道が破損し、既存のトイレが使用できない状態が長期化したことを踏まえまして、大規模災害時における避難所の衛生環境の確保・向上のためには、被災者が安心して快適に使用できるトイレ環境の整備が重要と認識いたしました。
このため、被災地派遣職員からの報告や、私も参りました被災地視察を通じて、避難所の衛生環境の向上に高い効果があると確認できました大型トイレカーについて、モデル的に導入する経費を9月補正予算案に計上させていただきました。県が整備する大型トイレカーは、県内市町で主に整備されている小型車両よりもトイレの数が多く、多目的トイレも備えた多機能型とすることで、市町と役割分担を図り、導入後は、各種防災訓練や市町対象の研修会、自主防災組織の意見交換会等に合わせて、展示会・体験会を実施することにより、市町のトイレカー整備につなげることができればと考えています。
また、能登半島地震において、トイレカーを保有する宇和島市、南あわじ市、島原市の相互応援協定に基づく協力関係が、迅速に把握した被災地ニーズの共有・初動対応につながったことから、本県においてもトイレカーを有効活用するため、県及び県内全市町による相互応援協定締結に向け協議を始め、大規模災害時に被災地で円滑に活動できる仕組みを構築することにより、チーム愛媛で避難所の衛生環境の確保・向上に取り組んでまいりたいと思います。