講演の最後は、東京都立大学/人文科学研究科教授の山下祐介による「“都市の正義”が地方を壊す~地方からの少子化論へ」。主なポイントは以下の通りです。
〇本年4月に発表された人口戦略会議「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート」は、若い女性の数で自治体の優劣と消滅可能性を示し、それを解決するには若い女性を確保し人数をそろえなければならないという論理に思える
〇それはレポートの基調で述べられた趣旨に反してゼロサムゲームを煽り、若年人口を近隣自治体で奪い合うことを誘うものにほかならない
〇人口減少の最大の原因は、減り続ける“出生数”にある。第3次ベビーブームは起こらなかったが、このことにより支える側と支えられる側に“世代間闘争”が起きるのか、あるいはしっかりと世代が“継承”されるのか、人口減少対策の今後が問われてくる
〇東京一極集中とは何か。東京は国の構造的中心であり、お金と人が集まって強い経済力を背景にすべての権力が集中しているが、人も食料も実際に生産しているのは地方だ
〇東京だけがものすごく“がんばってお金を儲けている”のではなく、“東京一極集中”によって“儲かる構造”が形成されているということだ
〇こうして集まった富・資源を、政策を通じて適切に再分配・再配置していくことで「国の力」の好循環を引き起こすのが国の役割であるのだが、国はこのプロセスの一部だけを見て地方をお荷物的に扱い、地方自らでさえ地方に見切りをつけ東京に送り出そうとする考え方や動きが止まらないというのが現実だ
〇なぜ、東京など大都市では経済的に豊かであるにもかかわらず低出生率なのか
〇1つには、大都市には“仕事”はあるが“暮らし”とのバランスが悪い点が挙げられる。都市化が進むと経済効率性は高まるが、出会いや結婚、出生や子育てなどは人間関係の問題であり、家族や地域で行うものであるから、“暮らし”という意味では効率性は低くなる
〇2つには、そうした“暮らし”の変化は、大都市に限らず地方や農村でも起きる(県都や地域の中心部への一極集中)。したがって地方も、低出生率・少子化が止まらないという結果になる
〇こうして見えてくる日本社会の真の課題は、“過疎問題”ではなく、“過密で生じた少子化”である
〇問題は“過剰都市化・過剰経済化”であり、その解は“東京一極集中を止めること”であり、“地方分権(あるいは地方の地方分権)を進めること”だ
〇さらにいえば、多くの国民が“地方分権は無理だ”、“危機を克服するには中央集権でなければならない”と信じ込んでいることが問題であり、今回の人口戦略会議のレポートにもこの思想が如実に現れている
〇レポートよりも、地方自らが作成した“地方版総合戦略”の効果について、PDCAサイクルを回しながらしっかりと見てきちんと評価することが大事だ
〇国民が有する“選択と集中”という価値観がある。一見、人口減少社会の解決のカギに見えるが、実は社会の解体を導く負の価値だ
〇“選択する”とは“選択されない”ということでもある。“選択されない”ことを回避するために上位に依存する人が増えると“上意下達”の社会となり、やがて“画一的”で“競争力の乏しい”社会に転落する
〇“選択と集中”という価値観ではなく、“多様なるものの共生”という本来的な社会の価値を維持することが人口減少問題解決の入り口となる
〇“排除”から“包摂”へ。“依存”ではなく“助け合い”へ
〇社会の一員であり社会に守られているという安心の内にある自由な主体こそが経済活力を生み出す
〇国民が互いに認め合い全体がうまくいくよう“多様性の共生”という価値観に変革していくとともに、国民の活力が維持できるよう、従来の制度を再構築し税収・配分を調整していくことが国に求められる
〇その意味で、“少子化”の脱却は決して不可能ではない
〇結婚希望者の結婚(現状7割→希望8割)を実現し、夫婦あたり希望子ども数(2人以上3人程度)を実現すれば、出生率は2.0に戻る計算となる。つまり、人々の家族形成を望み通りに実現すれば“少子化”の歯止めへの道筋が見えてくる
- 投稿者
- 木村誉
- 投稿時刻
- 22:12