次に、関西外国語大学外国語学部教授・文科省いじめ防止対策協議会座長の新井肇氏による講演「今、求められる子どもの自殺予防」の主なポイントです。
〇国内の年間自殺者数は、山一証券が廃業となった1998年に初めて3万人を超え高止まりが続く中、2006年に自殺対策基本法が施行され国を挙げて自殺対策が総合的に推進されて以降コロナ禍まで減少基調で推移してきた
〇一方、中高生の自殺者数・自殺率は1985年以降増え続けている。児童生徒は、いじめによる自殺やアイドル・有名人の自殺報道に影響を受けやすく、そうした事件のあった年は急増する傾向が顕著だ
〇先進国(G7)における10-19歳の死因の第1位は“不慮の事故”によるものだが、わが国は“自殺”となっている
〇児童生徒の自殺の特徴は、高い衝動性や大人から見ると些細に思える動機に加え、影響されやすさによる自殺の連鎖などが挙げられる(コロナ禍においてタレントや俳優、女優など有名人の自殺報道があった月はいずれも急増している)
〇自殺リスクの高い児童生徒の背景には、友人や家庭環境、学校生活、社会状況など様々な要因が絡み合っており、何か1つに固定されるものではない
〇小中高校生における自殺の原因・動機(2009年-2018年累計)の第1位は、男子小学生は“家族からのしつけ”、女子小学生は“親子関係の不和”、男子中学生は“学業不振”、女子中学生は“親子関係の不和”、男子高校生は“学業不振”、女子高校生は“うつ病”となっている
〇自殺の危険因子として、孤立や大切な人の死別や離別などの喪失体験、安心を感じない家庭環境や自傷行為経験、未治療の心の病(うつ病、統合失調症、摂食障害、薬物乱用等)、独特の性格傾向(完璧主義、二者択一的指向、反社会的性格等)や無意識的な自己破壊行動などが挙げられる
〇自殺の行動化の要因は、過重なストレスが蓄積する中、大切な絆を失った孤立感や自己否定などの負担感により自殺願望が芽生え、そこに自傷・虐待経験など自殺潜在能力が重なることで自殺行動となって現れる
〇自殺予防につながる学校づくりの重要なポイントとして、困ったときに気軽に相談できる体制・雰囲気をつくること、誰かの役に立ったり誰かに必要とされるといった自己有用感をテコに“自己肯定感”を高める取り組みが挙げられる
〇自殺予防には3段階ある。すべての児童生徒が未来を生き抜く力を身に着けることをめざす“自殺予防教育”、自殺の危険の高まった児童生徒への気づきと関わりを高める“危機介入”、自殺が起きてしまったときの危機対応とケアなどの“事後対応”だ
〇2022年に生徒指導堤要が改定され、生徒指導の重層的支援構造が示された。生徒たちが抱える課題の大きさや時間軸による対応など、自殺予防の各段階において適切な支援を進めることが求められる
〇自殺予防は“チーム学校”で進めることが肝要。教師と保護者、地域や関係機関がパートナーとしての関係を築き、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、スクールロイヤーなどの専門家が連携して介入するしくみを構築するなど、“社会に開かれた”学校づくりが自殺予防に効果をもたらす
- 投稿者
- 木村誉
- 投稿時刻
- 21:55